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Project B/No.03,2006 vol.15「B食を支える女性」
日本人の食卓に向いた企画をジップする/Guest:吉井 りえ さん 旭化成ライフ&リビング サランラップ販売株式会社マーケティング部 ジップロックブランドマネージャー
冷凍冷蔵庫+電子レンジ=新しいジップロック
旭化成がジップロックの販売権を取得したのは、「サランラップとの相乗効果を狙った」からだった(現在は、サランラップ販売株式会社が担当)。
まず手をつけたのは、「日本の消費者に向けて、ジップロックの活用提案をすることだった」という。販売権を取得した1996年には、早速、フリーザーバッグ、ストックバッグ、ベジタブルバッグ、レンジバッグなどのバリエーションを発売し、そのパッケージなどで、具体的な使い方の提案をした。「便利なバッグだから、ぜひ使ってほしい」という担当者の熱意を感じる。
その努力はすぐに実り、日本の消費者に急速に受け入れられていく。その背景には、担当者の努力だけでなく、冷蔵庫の進化史が示す、日本人のライフスタイルの変化があると思う。
冷凍冷蔵庫が登場した当初は、冷蔵庫が主役で、冷凍庫は脇役だった。1980年代以降、冷凍庫へのニーズが高まり、いまでは冷蔵庫と冷凍庫が「二人の主役」である。さらにこれとシンクロしているのが、電子レンジの低価格化と普及である。余った食品を冷凍し、必要なときにチンするというライフスタイルが、フリーザーバッグやレンジバッグの用途を開拓したことは明白だ。→
フリーザーバッグ(左)とストックバッグ(右)
フリーザーバッグ(左)とストックバッグ(右)
コンテナー
コンテナー
スクリューロック
スクリューロック
「アメリカのスクリューロックには、250ml単位で目盛線が刻まれているんです」
プラスチック製品だから、250, 500, 750と刻まれているのを200, 400, 600, 800と刻みなおすには、成形する「型」を変更しなくてはならない。コストのかかる要求なのだ。吉井たちは、日本の料理レシピが200mlを基本としていることから説明しなくてはならなかったのである。
食文化の違いに苦労する吉井たちの前に、思わぬ援軍が登場したのは、コンテナーの発売後、しばらくたってからのことだった。韓国のジップロックチームである。
「韓国の食文化も日本と似ていて、小さな容器を求めていたんです。そこで一緒に『角小』タイプを企画しました。発売は2004年。日韓オリジナルのジップロックコンテナーです」
2002日韓ワールドカップと同時期に、日韓ジップロック連合が誕生していたのだ。さきほどのスクリューロックについても事情は同じ。200, 400, 600と刻まれたスクリューロックもまた、日韓オリジナル商品である。
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童心に帰って企画した日本オリジナル
吉井の思い出に残る商品企画は、「くまのプーさん」シリーズである。ジップロックにディズニーのキャラクターを使ったものだ。
「童心に帰って、企画を練り込みました」
という吉井の工夫がこめられている。その第一は、ひとつの箱の中に、3種類の絵柄のジップロックが梱包されていることだ。
「お外に食品をもっていくとか、おうちで余ったお菓子を入れるなど、提案したいシチュエーションはさまざまなので、それをイージージッパータイプの商品では、キャラクターにこめて表現してみました」
この手の商品は、普通、同じ絵柄が刷り込まれているものだ。プーさんと一緒に過ごす子どもの気持ちになって、種類を変えた。これが、吉井のこだわりである。→
コラム
サランラップ
1960年に旭化成が発売。いまさら説明するまでもないだろう。類似品の中には、粗悪なものもあり、使い比べると歴然とする。サランラップはサッとロールからはがれるのに、容器にぴたりとくっつき、離れない。見た目はただのフィルムだが、原材料はポリ塩化ビニリデンで、見えないノウハウが詰まっているのだ。
ジップロックのバリエーション
素材に違いはないが、用途によって袋の厚みが異なる。このほか、ジッパーの形状によってもバリエーションがある。
冷蔵庫
商業的にもある程度成功したと言える世界初の冷蔵庫は、フランスの発明家であるフェルディナンド・カレが1858年に設計した。設計当初は冷媒に水が用いられていたが、翌年にはアンモニアに切り換えられて、効率がぐんとよくなった。
日本で初めて冷蔵庫を開発したのは東芝で、昭和4年(1929年)から研究開発を行い、昭和8年に発売した。当時の価格は720円。ちょうど一戸建ての家が買えるくらいの価格だった。
冷凍室を独立させた2ドア式の冷蔵庫が登場し、流行したのは昭和40年代。つまり、冷凍食品を日本人か使いこなすようになったのも、この頃からである。
電子レンジ
電子レンジは、マグネトロンという電磁波発生器を使って食品に電磁波を当てることで水分子を振動させ、その摩擦熱で調理する器具である。
この原理を発見したのはアメリカのパーシー・スペンサー(Spenser, Percy)博士だ。レイセオン社のエンジニアだった彼は、1945年のある日、マグネトロンのスイッチを入れると、ポケットのキャンディが溶けだすことに気づいた。続いて、好奇心旺盛な彼は、生卵を置いてみたのだという。もちろん、卵は爆発して、全身が卵だらけになったそうである(現代の電子レンジでも生卵は爆発するので、要注意)。
そして1947年、レイセオンから世界で初めての「レーダーレンジ」が登場。大型冷蔵庫のような形をしたこのレンジは、レストランなど業務用途に向けて発売された。
電子レンジの小型化・低価格化に成功したのは日本企業である。レイセオンのレーダーレンジは、水冷式のマグネトロンを使っていたため、小型化が難しかった。1960年代には、日本の家電メーカーはこぞって100ボルトで動作する空冷式のマグネトロン開発に取り組み、60年代末に家庭用の電子レンジを次々と発売したのである。
チンする
家庭用電子レンジの多くは、タイマーの終わりに「チン」というベル音を鳴らしたため、「チンする」という言葉が「電子レンジにかける」という意味に用いられるようになった。この表現の起源には諸説あり、ある料理研究家がテレビ番組の収録中、「電子レンジ」という言葉をど忘れし、とっさに「チンする」と言ったのが最初だという説もある。語源はともかく、この表現を広めたのは1985年にハウス食品が発売した「レンジグルメ」のテレビコマーシャルだ。
電子レンジとジップロック
2000年のジップロックのテレビコマーシャルは、「炊きたてをラップして、ジップして、フリージングしてチ〜ンしよ〜♪」であった。
 
 
吉井 りえ さん
吉井 りえ さん
1985年に成立した男女雇用機会均等法も、関係があるだろう。「事業主は、募集・採用、配置・昇進、教育訓練、福利厚生、定年・退職・解雇において、男女差をつけてはならない」とするこの法律のもとで就職をした第一世代が結婚し、夫婦で働きながら子育てをしはじめた時期と、ジップロックが日本でも商品拡充した時期が一致している。冷凍冷蔵庫と電子レンジとジップロックは、社会で活躍する男女の味方として機能しているのだ。
1999年には、ジップロックコンテナーを発売する。ジップロックといえば「袋」だったが、それを容器にしたのがコンテナーだ。食卓の味方がまた増えたのである。
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食文化の違いに悩む
「そうじゃないんです。日本の消費者は、小さい容器を必要としているんです!」
旭化成のジップロックチームは、コンテナーの成功を喜んでばかりはいられなかった。アメリカでジップロック事業をダウ・ケミカルから引き継いだS. C. ジョンソンと、商品企画でぶつかりあったからである。
新製品が成功すると、その成功を確実なものとし、よりひろげるために、ラインナップを拡充するのが常道だ。ただ、その方向性が日米で正反対なのだった。
「アメリカは大きいものを増やしていくんです。『ほら、次はこんなのを作ったよ』とバケツのような大きいものをもってくる。でも、日本の消費者はそういうのを求めていない」
ジップロックのブランドマネージャーをつとめる吉井りえは、笑いながら、その苦労を語り始めた。
「『小さいのが欲しいんです』と言っても、なかなか理解してもらえないんですよ。容器の形もそうです。日本では小さく、丸いコンテナーより、四角いコンテナーのほうが、冷蔵庫の中のおさまりがいいというので人気があったりしますし、日本の文化を説明するところから仕事が始まる感じです」
家の大きさ、冷蔵庫のサイズ、食材の違いや食習慣の違いなど、彼我の違いは大きい。ちょっとしたところに、矛盾として出てきてしまう。最新製品のスクリューロックについても、である。←
アメリカのスクリューロックには、250ml単位で目盛線が刻まれている。
アメリカのスクリューロックには、250ml単位で目盛線が刻まれている。
スクリューロックの上部の出っぱりは、加熱したときの熱さを感じさせない工夫でもある。
スクリューロックの上部の出っぱりは、加熱したときの熱さを感じさせない工夫でもある。
「印刷品質を確保するのが、さらに大変でした。日本のお客様は、ちょっとした傷が入っていても悲しまれるので、アメリカの工場まで出向き、何度もテストをしました。このへんも、なかなか理解されませんでしたね」
見かけはなんの変哲もないポリエチレン製品だが、ジップロックには、じつは担当者のこだわりが随所にこめられている。なにより、袋が厚く、ジッパーもしっかりしているので、きちんと密閉できて、匂いをもらさない。
コンテナーやスクリューロックにもジップロックブランドのこだわりがある。使わないときは重ねてコンパクトに収納できるし、加熱したときの熱さを感じさせない形状になっている。
そもそも、初期のジップロックにも、驚いた記憶がある。ジッバー部分に色をつけ、きちんと閉まったことがすぐにわかるようになっていたからだ。
サランラップもそうだが、百円均一ショップに並ぶ類似品に比べると、ジップロックは高価に見える。しかし、「見かけは同じ」でも、随所にノウハウと工夫が込められているのだ。私はこういう製品こそが本物であり、Bなのだと思う。
一つの箱に3種類の絵柄。童心に返って企画した日本オリジナル製品。
一つの箱に3種類の絵柄。
パーティやピクニックなど楽しい使用シーンを連想させる3種類の絵柄。日本でしか手に入らない商品だ。
ジップロックコンテナーは、必ず重ね合わせることができるように作られている。
ジップロックコンテナーは、必ず重ね合わせることができるように作られている。
© Disney
Based on the "Winnie the Pooh" works
by A.A. Milne and E.H. Shepard.



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写真・阿部真也
文・古瀬幸広