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Project B/6月 vol.7「B食を支える女」
本物のキムチを作り続けて48年キムチのほし山 日本人に伝え続けてきた本物のキムチの味/Guest:星山連順さん(有限会社キムチのほし山 取締役会長)
売り込みの相棒
「これが私の最後のキムチ。食べてみてちょうだい」
突然の申し出に家族の全員が戸惑っていた。言い出したのは、在日韓国人二世として日本で育ち、妻として、母として、そしてキムチ職人として働き続けてきた星山連順(ほしやま れんじゅん)である。
彼女は、「そろそろこのへんで一区切りつけたい」という気持ちが強かった。「キムチのおいしさを、日本人にもわかってもらいたい」という一念から、自家製キムチをつくり、あちこちに行商に出たあの日から、気がつくと20年が経過していた。
「ねえ、どっちなの?」
そう口には出さないが、連順の目がそう問いかけている。目の前には、二種類のキムチが置かれていた。一つは連順が材料から吟味し、精根こめて作ったキムチ。もう一つは、在日韓国人男性が企業化し、ついにスーパーマーケットにも並び始めたキムチである。
もちろん、どちらのキムチが連順のものかは教えられていない。偏見なく食べてみて、どちらがどうおいしいかを言え、というのだ。→
キムチの製造過程
ていねいに白菜の1枚1枚に塩を振る。
キムチの製造過程
次々と塩をされた白菜ができあがっていく。
キムチの製造過程
樽に漬けこまれて準備完了。
キムチの製造過程
最後にキムチのもとを刷り込んでいく。
キムチの製造過程
すべての葉に塗り込む。
キムチの製造過程
目にもとまらぬ早わざ。
キムチの製造過程
できあがり。あとは発酵を待つのみ。
という家族の声に、また違う意欲がわいてくる自分に気がついた。「本物のキムチの味を伝えなきゃ。まだまだ私がやらなきゃいけないことがある!」と思ったのだ。
区切りをつけるつもりが、新たなる出発となった。キムチが日本で市民権を得るだけでは、まだダメなのだ。それどころか、日本の人々に受け入れられると同時に、「日本のキムチ」が堕落したようにさえ感じる。日本人の好みにあわせたのかもしれないが、けっしてスーパーマーケットに置かれたキムチは、星山家からみて、満足できるものではなかったのだ。
そうでなくても、味の探究にゴールはない。連順は、再度材料から吟味をし、漬け方の工夫を始め、ゼロからやり直すことにした。
「塩加減がとても大切です。塩を上手に使うと、すべての味の『角』をとって、丸くしてくれるの」
塩と塩化ナトリウム(Nacl)は決して同じものではない。天然の塩は、にがり成分を含む関係で、産地によって個性があり、仕上がりの味も違う。連順はさまざまな塩を手にいれ、試行錯誤を繰り返すところから、キムチ作りを見直したのである。
彼女が注意していることは、「天然のうまみ」を引き出すということだ。「漬ける」から漬物というのだが、その漬けるという行為は、白菜やキュウリ、大根などの野菜を舞台として、乳酸菌が活躍する場を作ってやる、ということである。
日本の漬物も、キムチと同じ乳酸発酵食品である。現代日本人の多くは、「乳酸菌」というと、反射的にヨーグルトを思い浮かべてしまうが、じつは、私たちの伝統食品も、乳酸菌を上手に利用している。
もともとその乳酸菌は、私たちと一緒に生活をしている菌の一種である(科学的にいえば、腐敗と発酵は同一の現象である。腐敗を起こすものを特別に「バイ菌」と呼んでいるだけのこと)。カスピ海ヨーグルトのように、菌を意図的に加えていかなくても、ある環境を整えてやれば、生活の中の乳酸菌が増殖し、発酵を進めるのだ。
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複雑な旨味のキムチは韓国料理の象徴
乳酸菌は、食物の中のタンパク質を分解し、旨味成分のアミノ酸に変えていく。日本の漬物もキムチも、基本はまったく同じだが、違いが二つある。
第一は、「混ぜ込み」という発想をするか否かだ。第二は、汁を活用するかどうか、である。
第一の点は、ビビンパの食べ方の日韓差にそのまま現れているように思われる。初めてビビンパを食べる日本人は、まず間違いなく、上に乗ったナムルをそのままに、少しずつ食べていくだろう。そして、隣の韓国人が、最初にすべてを混ぜ込んでいるのを見て、驚くはずである。
どちらがいい、という問題ではない。ただの流儀の違いだが、それが文化の違いであり、好みの違いであり、漬物の日韓差となっている。白菜をそのまま漬け込んで味わうのが日本流、白菜にオキアミやニラ、ニンニクなどを混ぜ込んで漬けこむのが韓国流だ。
「白菜も探しました。オキアミも探しました。じつは昨年、瀬戸内にあるオキアミの仕入れ先を初めて訪問させてもらったの。もう感激! 水揚げされたばかりのオキアミが手の中でピチピチははねるんだけれど、とってもきれいなの」
これが私のキムチのおいしさを支えてくれているんだと思うと、感激もひとしおだった。このオキアミをはじめ、一緒に漬け込まれるさまざまな材料が、キムチの旨味をつくりだしている。
ひょっとすると、日本人は、キムチの赤い色にごまかされているのかもしれない。白菜の漬物を唐辛子で辛くしたもの、というのが、キムチに対するイメージだろう。
キムチの真骨頂は、唐辛子にはない。むしろ唐辛子は、後からつけ加えられたものである。キムチの特徴は、さまざまな材料が混ぜ込まれ、それが乳酸菌の働きで複雑な旨味となって結実するところにある。カメの中で、重層的な旨味のハーモニーが奏でられるのがキムチなのである。
これが、相違の第二の点につながる。熟成したキムチが出す汁は、旨味と乳酸菌たっぷりの、おいしい天然の調味料であり、韓国料理ではそれを活用する(対して日本の漬物の大半は、汁は捨ててしまう)。
「私は、韓国料理の文化って、汁の文化だと思うの」
という連順の分析は、おそらく当たっている。「とらぬ狸の皮算用」という意味で、「キムチの汁を先に飲む」という表現を使うくらいなのだ。豚キムチ鍋がおいしいのは、熟成したキムチの汁が調味料となって、味の深みを増すからである。
「でもね、日本人は浅漬けが好きみたい。だから多くの焼肉店では、辛いだけのキムチを出している。それが残念です」
キムチが市民権を得たことはうれしいが、まだまだ、理解されているとは言い難い。それが連順の悩みだ。→
星山連順さんが自ら選んだ材料の数々
星山連順さんが自ら選んだ材料の数々。愛知県の白菜、瀬戸内のオキアミなど。「日本の白菜は水分が多いので、本当は韓国の白菜を使いたいんですが、日本人には国産信仰があるので、ちょっとやりづらいのが悩み」とも。
食材・加工品
キムチのほし山には、キムチだけでなく、さまざまな韓国料理の食材・加工品が並ぶ。
焼肉のタレも無添加
焼肉のタレも無添加。
これは間違いなく、キムチが「生きている食品」だからである。空気が乳酸菌の活動を邪魔したりするのだろう。ちょっとしたことだが、それがその後の味を決める。理解を深めて、最後までおいしく食べられるようにしたいものだ。
「韓国が汁の文化だとつくづく思うのは、水キムチです。水キムチは中に入れる野菜ではなく、水そのものをおいしくするもの。発酵して、酸っぱくなった水キムチを使って食べるのが、冷麺です」
そうか、なるほど、という話である。冷麺に普通のキムチを入れて、酢を入れて食べるのは亜流。本当は、発酵が進み、酸っぱくなった水キムチの旨味で食べるものだったのだ。
ハルモニになったいまも、連順の情熱は尽きることがない。毎日現場に出て材料を吟味し、漬け込み、お店に出る。
「気になっているのは、『本物の味わい』がわからない若い人たちが増えていること」
だという。それに迎合したのか、あるいはコストダウンが目的か、京漬物の老舗でも、他のキムチ製造会社でも、味付けを化学調味料に頼るところが増えている。
「私自身、ちょっと病気したことがあって、その後、添加物が多く入ったものは食べられなくなったんです。苦味やえぐ味や、香りの悪さが気になる。『過剰』が当たり前になる怖さがあると思います」
という連順の口ぐせは、
「マメに作って、マメに売れ」
である。マメというのは、手間隙のことだ。お客さまの手間隙を代行するから、商売になる。だから手間隙を惜しむな、というのである。
マメに作れば、保存料もいらない。ほし山のキムチには、「熟成無添加」タイプのものも用意されている。本物のキムチの味を知りたかったら、まずはこれを試してみて欲しいと思う。いまではネット通販でお取り寄せもできる。材料からハルモニが吟味し、精根こめて漬け込んだキムチだ。酸味の中にひそむ複雑なアミノ酸のハーモニーを感じとって欲しい。
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コラム
キムチ
韓国語で「漬物」のこと。日本では「白菜キムチ」の代名詞のように用いられているが、漬け込む野菜はいろいろある。代表的なものは大根キムチ(カクテキ)、キュウリキムチ(オイキムチ)、水キムチである。
キムチの語源は「野菜の塩漬け」を意味する「沈菜」で、寒さの厳しい朝鮮半島の冬の野菜不足を解消するために、野菜を塩漬けにしたことが由来だ。その歴史は7世紀頃からあるという。
韓国焼肉店
多くの日本人は誤解をしているが、日本の「韓国焼肉店」のスタイルは在日韓国人が編み出し、日本で発展させたものだ。正確には、「韓国焼肉日本流アレンジ店」である(文化交流が急速に進む今日、このスタイルが韓国に逆上陸もしている)。
もともと日本文化に牛を食べる文化はなく、たとえばモツは捨てていた。それがおいしく、栄養価も高いものであることを教えてくれたのが、焼肉文化を日本に持ち込んだ韓国の方たちである。
焼肉店はおいしい牛肉の食べ方だけではなく、韓国文化を売っている。日韓両国にとって、日本で焼肉店が繁盛したことの意味は大きい。詳しくは、「焼肉と在日韓国人」(崔吉城著『韓国民俗への招待』、pp.187-216、風響社、ISBN4-938718-16-2)を参照。
腐敗と発酵
こう書いてしまうと身も蓋もないが、科学的には乳酸菌もバイ菌の一種であり、日本の漬物もキムチも「腐っている」のである。人間にとって有用であるから、バイ菌ではなく「乳酸菌」と特別な名前をつけ、腐敗と発酵を分けているだけのこと。乳酸菌の活用法を早い段階から見つけ出したのは、人類にとって幸福なことであったと思う。とくに日本のぬか漬け、韓国のキムチで活躍する乳酸菌は、温暖な気候なのに食物が腐敗しにくくなるという、じつに有用な特性をもっているが、まだまだ未知の部分も多いという。これからの研究の進展が望まれる。
参考
http://www.pu-kumamoto.ac.jp/
kokenkenkyu/h12gaiyo/12matsusaki.htm
食べ方の日韓差
韓国が近くて遠い国であると実感するのは、食べるときである。韓国人が日本人の食べ方をみると「お行儀が悪くて下品」だと思うし、日本人が韓国人の食べ方も見てもそうである。ほとんど、作法が正反対だ。韓流にのって韓国を訪れるときは、事前にお作法を勉強していきたいものである。たとえば、器をもって食べるのは、韓国では下品とされる。
混ぜ込み
地政学的には、朝鮮半島は古来より東洋の火薬庫であり、強大な中国、北方民族、そして日本からの侵略の脅威を抱えていたことから、食事も混ぜ込むのだ、という説がある。戦時食として便利だからである。
キムチと唐辛子
キムチの歴史は7世紀からあるが、唐辛子は豊臣秀吉の朝鮮侵略とともに持ちこまれたものである。つまり、キムチが赤くなったのは16世紀末以降のことであるにすぎない。日本では一味や七味に加工される唐辛子だが、韓国では糸唐辛子をはじめ、挽き方にいくつもの種類があり、加工のバリエーションはもっと豊富だ。また、生物種としては同じだが、朝鮮半島の気候風土は、唐辛子の辛みをまろやかにするようで、韓国産の唐辛子と日本産の唐辛子は味が違う。
キムチのパック
ほし山のキムチのパックは空気を通さないようにできていて、匂わない。お土産に買い込んで、電車に乗っても平気である。この配慮はうれしい。
キムチ物語
キムチ物語
星山連順さんがキムチと歩んだ人生は、この本にも書かれています。
定価 1,260円
(本体 1,200円+税)
著/李連順(いーよんすん)
体裁/四六判 総160頁
 
 
星山連順さん
星山連順さん。
「これじゃ、まるで味覚テストだな」
と思うと、自然と家族は押し黙り、二つのキムチを交互に、ゆっくりと噛みしめ、味わうことに没頭しはじめた。
真剣そのものの家族の顔を見つめていると、20年間の出来事が、次から次へと頭をかすめた。スカートをはいてお洒落する余裕などない。ジーンズを買って、自転車にまたがった。
「絶対に私のキムチはおいしいし、このおいしさは、日本人もわかってくれるはずだ」
という思い込みだけで夢中で自転車をこぎ、食品店が並ぶ京都の市場を回り、「これ、私がつくったキムチです。お店に置いてください」と頼みこんだ毎日。「朝鮮漬でしょ? ニンニクを使っているから、日本人にはあわないよ」と言ってくれる人はまだいい。「そんなのいらないよ。売れないもの」と、詳しい話を聞こうともしないで追い返した人が大半だった。
「日本におけるキムチの歴史は、在日韓国人の歴史そのものです」
と連順がいうのもうなずける。韓国文化への理解が進み、韓国焼肉店が繁盛し、気がつくとスーパーマーケットにもキムチが並び、韓流ブームさえ起きている。
彼女がこの商売を始めた48年前、誰が今日の姿を予想しただろうか。韓国は日本に最も近くて、そして最も遠い国であり、多くの日本人はキムチの匂いを嫌っていたのである。
「最初にこの商売を始めたキッカケは、そこにキムチがあったから、としか言いようがないです」
という連順は、多少のことではへこたれない。いつも明るく、芯が強く、手を動かすことが大好きな女性である。キムチを漬けては自転車をこぎ、自ら京都の公設市場の漬物店に売り込んだ。熱意と、そして味とで、徐々に取り扱ってくれるお店を増やしていったのである。
「あ、いいよ、と二つ返事で置いてくれたお店もあって、あれはほんとうにうれしかった。でも、もっともっとうれしかったのは、『この前のキムチは全部売れたよ。今度はもっとたくさんもってきて』と言われたことでしたね」
生活のため、とはいえ、ただそれだけで、キムチにこれほどの情熱をかけることはできなかったのではないか。同じ漬物でも、日本人になじみ深いものを漬けこむこともできたはずなのだ。自分たちの文化に対する矜持を、二世だからこそ意識し、「日本人にもわかってもらいたい」という純粋な気持ちをもっていたということではないだろうか。
「自分自身が食いしん坊で、周囲の人たちにおいしいものを食べさせて、『おいしい!』と言わせるのが好き、という性格的なものもあったんでしょうねえ」
これは、連順の父もそうだった。経済的に成功していたこともあり、自分自身も食いしん坊だったし、家族においしいものを食べさせてくれたのだという。
「いまでも覚えているのはね、天の橋立での宴会なのよ。漁師さんと舟を借り切って、投網でとってもらったお魚を、その場で調理して食べたの。私はまだ小さかったから、天ぷらをいただいたのだけれど、その隣で父たちは、海老の踊り食いを食べていたわ」
星山連順の原点は、ここにある。
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まだまだ私がやる!
連順のキムチ商売は、ゼロからの出発ではなく、マイナスからの出発だった。在日韓国人に対する差別、キムチに対する無理解、そして、女性が売り歩くことに対する抵抗感——逆風の中、連順は体当たりで道を切り拓いてきたのである。
それこそ、無我夢中で通り過ぎた20年間だった。ふと気がつくと、二種類の子育てが、いっぺんに終わった、という感じがしたのだった。
自分が産んだ子供たちは、もう大学生になっている。その一方で、「もう一人の子供」といっていい「日本のキムチ」も成長している。韓国焼肉店が街に定着するのと同時に、キムチも徐々に市民権を得て、説明しなくても売れるようになった。
「キムチというのは、韓国語で漬物のことでしょ。白菜だけでなく、いろんなキムチがあるんだよね」
と聞いてくる日本人さえいる。
キムチが市民権を得たことの象徴が、キムチを生産する食品会社の登場と成功だ。キムチ作りがビジネスチャンスとなる時代が到来していた。いまや、スーパーマーケットにさえ、少しずつだが、キムチコーナーを見かけるようになっている。
「もう私が、キムチのために頑張ることもないのかもしれない」
という気持ちが、頭をよぎったのだった。だからこれでやめようと、「最後のキムチ」を漬けてみたのだった。
押し黙って、キムチを食べ続けていた家族が、そろそろ結論を出したようだ。全員の意見が一致した。「こっちのほうがおいしい」と指さしたのは、連順が漬けたものだったのである。
「やっぱり。こっちが母さんのでしょ。おいしいよ! 全然違うよ」←
衛生管理
キムチの乳酸菌は温暖でも腐敗を防ぐものだが、それでも衛生管理には気を配り、工場にはハードディスク製造のクリーンルームを参考にした設備を導入している。
商品として販売されている無添加キムチ
商品として販売されている無添加キムチ。化学調味料を使っているものもあるが、「0.2%以内に抑えている」という。微量の化学調味料は、熟成の足りないキムチに見られるバラバラな旨味を、統合してまろやかにする効果がある。
瓶売り
店舗に行くと瓶売りもしている。
身振り手振り
「おいしいもの」の話題になると身振り手振り。このあと、「冷麺は水キムチの酸味と旨味で食べるものなのよ」と実演してくださった。この冷麺はすっきりとした酸味の中に、複雑な旨味を含む飛び切りのもの。水キムチもお取り寄せできるので、試してみて欲しい。
「うちも商売ですから、種類を増やして、さまざまな好みに対応するようにはしています。でも、このことは、日本のみなさんにわかってもらいたい」
と連順が言うのは、「酸っぱくなったキムチ」のことである。
「キムチは乳酸発酵食品ですから、発酵が進むと酸っぱくなるのは当たり前だし、その状態のほうがおいしいのです。でもそれを、『腐っている』といって捨てる人がいる」
「腐敗する」と「発酵する」の違いをわかっていない日本人が、意外なほど多いということである。
「酸っぱくなったキムチのほうが、むしろおいしい。タンパク質が分解されてアミノ酸に変わり、複雑な旨味を作り出しますから。そのことをわかってもらいたいな、と思います。ウチでは、熟成キムチを売っていますし、そうでない製品も、置いておけば発酵が進み、熟成します。どんどんおいしくなるんです」
熟成しなければ、旨味たっぷりの汁も出ない。キムチの場合、ニラやニンニクが強烈な香りをつけるので、熟成が進むと、腐っているかのような匂いを出すこともあるから、損をしている。
でも、考えてみると、腐乳やブルーチーズ、納豆など、慣れないと腐っているかのような香りを出す食品は多いのだ。
「さらに言うと、キムチは熟成しすぎたものも、使い道がある。そこがおもしろい」
熟成するとおいしい、とは言っても、さすがに酸っぱくなり過ぎた、ということもある。でも、こうなったら、チャーハンや鍋に入れるといい。火が入ると酸味がやわらぐし、熟成した旨味が、チャーハンや鍋をおいしくしてくれる。
「キムチは応用範囲が広いから楽しいんです。ぜひいろいろ試して欲しい」
それを捨ててしまうとは、なんとももったいないことをしてきたものである。本当のお楽しみは、酸っぱくなってからなのだ。
おいしいものの話をしているのに、健康の話をするのは野暮というものだが、でも、触れておくほうがいいだろう。熟成が進んだキムチの酸味は、乳酸菌が作り出している。つまり、それだけ乳酸菌が増えているということだ。
どれぐらい増えているのかというと、信じられないほど増えているのである。熟成キムチ1グラムには1億から数億の乳酸菌が生きている。これは、乳酸菌飲料やヨーグルトと比べても遜色ない数値だ。キムチは非常にすぐれた乳酸菌取得源なのである。
キムチの中で活躍しているのは、腸内を健康に保つことで有名なラクトバチルス菌である。また、この乳酸菌の働きでギャバ(アミノ酪酸)ができることもわかっている。しかも、野菜が主体だからヘルシーだ。代表的な乳酸菌取得源であるヨーグルトは、牛乳をベースにしているため、動物性脂肪も多く、意外なほどカロリーも高い(約200mlで120kcal前後)。「健康にいい」ことは確かだが、食べすぎると、カロリーオーバーになる可能性もある。キムチなら、摂取カロリーが多くなるという弊害はほとんどないし、食物繊維やビタミンB1、B2もとれるのだ。
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肩寄せあっておいしく
「ぼくも、母さんの仕事を手伝うよ」
家族の前で、再出発を誓った連順の姿を見て、成人した息子たちがサポートに回った。それが現在の「キムチのほし山」の姿であり、さらに20数年が経過している。連順は「母さん」(オモニ)から、「おばあちゃん」(ハルモニ)と呼ばれる年齢になった。
「ここまでやってきて、いちばんびっくりしたのは、『えっ! キムチって韓国語なんですか?』と若い人に聞き返されたことでしたね」
というのは、連順がする笑い話である。そういう人が出てくるほど、当たり前の食品として、日本にキムチが定着したのだ。
でも、これは、日本人からすると、恥ずかしい話でもある。キムチという食品に対する理解が浅いことを証明しているからだ。きっと、そういう日本人は、キムチをおいしく保存することもできないに違いない。
「そうなんです。キムチの上手な扱い方を知らない人が目につきます。このことは、もっともっと私たちが伝えていかないといけないことだと思っています」
という連順が例に出したのは、キムチのパックを開封した後の話だ。
「開けて、ちょっと食べた後が重要なんです。キムチが空気に触れると、おいしく熟成しないんですよ。だから、食べたあと、なるべく寄せて、空気に触れる面積を小さくして保存して欲しい。私はよく、『キムチは肩を寄せ合って、おいしくなるんだ』と言っています」 ←
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京都駅からキムチのほし山本店に向かうには、市バス28系統に乗って、梅津段町下車。進行方向に歩いて橋をわたると、すぐ見える。
〒615-0933
京都府京都市右京区梅津後藤町30-1
Tel: (075)872-2129
Fax: (075)881-8931
キムチのほし山のウェブページ
http://www.hoshiyama.ne.jp/
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西田さんのB食店
京都といえば京料理。でも、せっかくですから、焼肉店のお
ススメを聞いてみました。
「西大路御池東300m北側の大仙(だいせん)、大徳寺信号
下ル100mの芝蘭(ちらん)、修学院のはつださんがおいしい
です」とのこと。


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裏話は編集ぶろぐへ

(文・写真 古瀬幸広)