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Project B/2月 vol.3「B食を生み出した女」
Photograph: Akihiko Sonoda  
フレンチトーストから始まった、スウィーツな人生
私にフレンチトーストを作らせてみない?
「店長しのっち」の愛称でホームページに登場する篠直余(しの・なおよ)さん。篠さんが「楽天市場(以下 楽天)」で展開するサイト、「デパ地下洋菓子店 シリアルマミー(以下 シリアルマミー)」には、毎月のべ30万以上の人が訪れている。月6万個の販売を記録する「デセールキャラメル」をはじめ、「パンペルデュ」「ジンジャップル」など、テレビや雑誌に紹介される人気のスウィーツはすべて篠さんが開発してきたものだ。
「以前は、どっぷりと専業主婦に漬かっていたんですよ。それがふとしたきっかけで、フレンチトーストを売ることになっちゃって」
大きな笑顔を作って、篠さんは1998年1月のことを振り返った。
「もともとは代官山の、“カフェ・エ・ビストロ シリアルマミー”という名前のフランス料理店だったんです。主人が経営していたんですが、その年の冬にインフルエンザがすごく流行って、スタッフが足りなくなっちゃったんですよ。『フロアに誰かいないと、ランチが困るんだよ』という相談をしてきてね。アルバイト代がもらえるなら自分でやろうかなと。ほら、主婦って、少額でも自由になるお金が欲しいじゃないですか(笑)」
大学を卒業してすぐに結婚した篠さんは、飲食業界どころか働くのも未経験。すごく軽い気持ちでホールに立ち、厨房で交わされるフランス語を聞いて「超かっこいいー」と感激したそうだ。→
デセールキャラメル
フレンチトーストの次に出した商品「デセールキャラメル」。中にほろ苦いクリームが入っているため、購入者の3割り以上が男性だという。
パン・ペルデュ
テイクアウト用に開発されたスティックタイプのフレンチトースト。現在は「パン・ペルデュ」という名前で販売されている。
「その看板を見て、新宿伊勢丹のバイヤーがやってきましたね。これからブームになりそうな商品を探していたみたいで。あれは、勢いで書いたものだったんですけど」
たった3ヶ月で、篠さんのフレンチトーストはデパートの出店が決まってしまった。
「でも、相変わらず誰も手伝ってくれないんですよ(笑)。だから伊勢丹での1ヶ月催事は、自分でアルバイトを募集しました。それでも死にそうになりました!」
篠さんは笑って話すが、当時、小学生と幼稚園生の子供の面倒を見ながらフレンチトーストを焼き、2ヶ所の店で販売を行うというのは、並み大抵のことではない。3日間徹夜したこともあったし、救急車で運ばれたこともあったという。
その後、多くのデパートから出店の依頼が来るが、篠さんはプランタン銀座だけに出店する。理由は「唯一菓子折りを持ってきたから」とか。
「後で分かったんですけど、プランタンはメディアにすごく強かったんですね(笑)。その頃から、4ヶ月に1回ぐらいの割合で新商品を発表していきましたが、すべてテレビに出たと思います。作ればヒットするという感じでしたね」
このプランタン銀座への出店を機に、代官山のレストランは閉店した。
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次々と生まれたヒット
デパ地下ブームが訪れる少し前の1999年2月、プランタン銀座の地下で(テイクアウトの)シリアルマミーがオープンした。当初、商品はフレンチトーストだけだった。
「春になったら、焼きたてのフレンチトーストなんか売れなくなっちゃうって心配していたとき、キャラメル味が巷には出まわっていたんです。しかし、どれも味も風味もなくて、どこがキャラメルなの?と許せなかった(笑)。そこで、絶対キャラメル味の冷たいスウィーツを作ってやる!って決心しました。そして、“デセールキャラメル”が誕生したんです」
デセールキャラメルは、フランスパンのフレンチトーストの中にキャラメルクリームが入った冷たいお菓子。たっぷりとトッピングされた真っ白い生クリームが特徴だ。
「生クリームは植物性のものを使いました。キャラメルクリームがかなりほろ苦い味に仕上がっていて、動物性だと味がぶつかってしまうんですよ。口の中で変に後味が残っちゃう。キャラメルの香ばしさと苦さをなくさないためには100%植物性の生クリームが必要でした」
この2作目のスウィーツは、キャラメルブームに乗ってフレンチトースト以上に売れた。芸能人も購入するようになり、キャラメルブームの火付け役とまで紹介された。そして次に作ったのは“ジンジャップル”という、ガリ(ジンジャー)の入ったアップルパイだった。 →
スイーツフォレスト
「自由が丘スイーツフォレスト」のシリアルマミー。ここでは、あたたかいデセールキャラメルを食べることができる。
おかじゅう
スイーツフォレスト店オリジナル商品の1つ「おかじゅう」。お弁当箱の中身はすべてスウィーツで作られている。
「次はメルマガでした。メルマガなんて書けないと思っていたから、もめたんですよ。でも翌月の売り上げは5万円。もうメルマガしかないって、泣く泣く書きました。そしたら、いきなり売り上げがボーンと20万円。それで急にやる気になっちゃったんですね(笑)。私って単純でしょ」
篠さんの努力が実を結んだのは12月だった。お歳暮の時期になって160万円の売り上げが立ったのだ。しかし、梱包から伝票書きまでを下井草の自宅で1人でやっていた。
「あの時も死ぬかと思いましたよ(笑)。お歳暮だからご依頼主さんと贈り主さんの2つを伝票に書かなくてはいけないというのに、1000件ものオーダー。電車に乗っていても、店のショーケースの上でも、どこでも書いていました(笑)」
翌月は疲れきって何もしなかったという。
「1月は売り上げを落としてのんびりしていたら、お客様からメルマガが来ないって言われて。え?私のこと待っているの?とまた急にやる気になっちゃったんですよね(笑)」
今では、週に2回8万人にメルマガを送っている。内容は取材の裏話や世間話だという。そしてメルマガだけでなく、オーダーのメールにも篠さんは丁寧に返信をしている。
「『はじめまして』『いつもありがとうございます』など、顧客名簿を見ながら個別に対応しています。入金の確認がとれたらメールを、発送されたら運送会社の伝票番号をメールする、という具合に何度も送ります」
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心配事は、転じて好評
「デセールキャラメルをネットで販売するのは苦労しました」
と篠さんは話す。生クリームに小さなサイズがなかったのだ。
「生クリームはカチンコチンに凍らないので、配送の途中で崩れてしまうんです。だから別添えに。1年以上かけてメーカーを説得して、やっと400ml入りのクリームを作ってもらいました。でも、お金を払うのに自分でクリームを絞るとは何事だ!とお客様に怒られると思っていました。ところが逆に、子供がよろこんだとか、自分の好みにできたとか、あまったホイップを利用できるとか、大好評だったんです」
当時、ネットに生クリーム商品がなかったこともあり、デセールキャラメルは大ヒット商品となった。月6万個以上売れ、楽天売り上げのスウィーツ部門のトップを何度も飾った。また、「2003年度年間売れ筋ランキング(グルメ部門)」ではジャンル受賞にも輝いた。
しかし、パーツを別々にして発送したにもかかわらず、デリバリーへのクレームは多かった。
「解凍していたとか、崩れていたとか。そこで伝票の近くにシールを貼ったんです。『ドライバーの方がたへ。お疲れ様です。中身は生ケーキで、大切なお客様が楽しみに待っておられます。冷凍保存を保ってください』みたいなことを書いたんですよね。そしたら、取り扱いが改善されただけでなく、お客様から『感動した』というお話をたくさんいただいたんです」
一所懸命対応する篠さんの姿勢は、いつもお客への喜びにつながった。そしていつしか、月のアクセスは30万を越えるように。そして売り上げも月1000万円となった。さらに、2003年の冬は「自由が丘スイーツフォレスト」(東京・目黒区)に出店し、昨年8月には自社ビルと路面店を持った。
「さすがに主人も手伝うようになりましたね(笑)。3つあった会社を手放して、今は私だけを縁の下の力持ちのように助けてくれています」
専業主婦だった篠さん。つぎつぎと出てくるスウィーツのアイディアや印象的なネーミングが成功の鍵となった。しかし、彼女の明るさと、逆境に負けないパワーが大きな原動力だったのも事実だろう。今年は関西にも進出するのでますます忙しくなりそうだが、最後に大きく笑って意外な事実を教えてくれた。
「じつは、早く専業主婦に戻りたいんです。ずーっと子育てが心配だったんですよ。楽なあの頃に戻りたくて、一所懸命やってきただけなんです。子供は勝手に育っちゃいましたけど!」
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篠さんのB食店
すし屋の芳勘
篠さんが推薦するお店は、お寿司屋さん。
「小付」と呼ばれる小鉢料理が人気で、30〜40種類揃っている。
「おススメは“板前のおすすめコース”です。店主の服部さんは、驚くほど忍者ハットリくんにそっくりなんです!」
すしやのよしかん
TEL:03-3793-6261
東京都目黒区鷹番3-16-19 サザン・パレス服部1F
営業:12〜23時
定休日:水
www.susi-yoshikan.jp

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裏話は編集ぶろぐへ

篠直余さん
篠さんは笑顔のたえない人。ネットで大人気の「デセールキャラメル」を持って。
「ある日、パティシエも風邪で休んでしまってシェフが困っていたんですよ。大変そうだと思って、私にデザート作らせてみない? と言ったんです。『何作れるの?』と聞かれたから、『ひとつだけ作れるよ!フレンチトースト!』ってとても元気よく答えたの。そしたらシェフの行相が変わってしまって…。『あれは、お金をいただいてお出しするものではない!』。あんなの食べ物じゃないって感じでしたね(笑)」
フレンチの世界では、フレンチトーストはステーキの焼き加減の練習に使ったり、まかない食として出したりするものだとシェフにあきれられたという。しかし、代官山という立地と今までにない意外な面白さから、フレンチトーストがうけると感じた篠さんは、ある提案をした。
「じゃあ賭けをしようよ、と最後に言ったんです。初日に売れなかったらあきらめるけど、1個でも売れたら1週間メニューに載せてくれって。ところが、メニューをつくるのも、フロアで売り込むのも私でしょ。メニューにはそれしか書かなかったし、『当店自慢の!』なんてお客さんにはアピールしたから、当然、一発で出ちゃった!(笑)」
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ベルギーワッフルの次
賭けに勝った篠さんは、約束どおりフレンチトーストを店で出すことができた。しかし、誰も手伝ってくれなかったため、とても忙しい7週間となった。そして、これをきっかけに、篠さんの人生は雪だるま式に多忙になっていく。
「1週間目、今日で終わりかぁと思っていたら1本の電話があったんですよ。情報誌からで、フレンチトーストを取り上げたいって。『いや〜雑誌に載ることになっちゃったんだけど、1ヵ月後だからそれまで売っていなきゃね』と説明して、1ヶ月延びたんです(笑)」
掲載されると反響は大きく、お客が並ぶ勢いとなった。そしてその雑誌をみて、ラジオ局がインタビューにやってきた。インタビューの中で篠さんは、「今流行のベルギーワッフルみたいに、食べ歩きができたらかっこいいのに」と思わず口にした。インタビュー後、すぐにテイクアウトできるように商品を開発。そしてみんなの反対を押し切って、店舗を改装して販売窓口を設けた。
「これも、『自分のポケットマネーでやる!』ってつっぱったんですよ(笑)。テイクアウト商品は、注文を受けてから焼き上げるのに7分かかりました。ちょっと待つんですよ。代官山だからカップルが多くて、いつも4人ぐらい待っているような印象がついたんですね。そしたらテレビ局が『なんで行列ができているんですか。取材させてください』って来たんですよ。そして、本当に行列ができるようになっちゃった」
ラジオ局の次はテレビ局がやってきたのだ。
また、当時人気だったベルギーワッフルに目を着けて、「ベルギーワッフルの次はこれだ!」と書いた手作りの看板を、篠さんは通りに設置していた。 ←
クリームチーズパイ
人気急上昇中の「うめぼしのクリームチーズパイ」。梅とチーズのマリアージュは、とんかつ屋で食べた“しそとチーズを挟んだとんかつ”からヒントを得たそうだ。
天使のいちご
販売3ヶ月で1万本を売り上げている「天使のいちごロールケーキ」。ネーミングもすべて篠さんが考える。
「これもすっごい思いつきで作ったんですよ。そしたら、その頃インフルエンザが流行していて、生姜のお菓子は面白いって。また爆発ヒットしちゃったんです。多い日は、1日に3回ぐらいTVで紹介されていました」
新商品のヒントは、雑誌を見たり、街を歩いたり、コンビニエンスストアに立ち寄ったりして得ている。
「季節とか巷の雰囲気を察知できるのは、コンビニの商品が一番です。結構、ハーゲンダッツのアイスが参考になったりして。シャワーを20分ぐらい滝のように浴びているときに、アイディアが浮かびます。とりあえず頭の引き出しに入れておいて、世間の流れを見て商品化しています」
4つ目の商品を開発しているころ、楽天の存在を知った。
「子供を介した親同士の付き合いで、ポストペットでメール交換をはじめたんです。そしたらメール仲間が楽天を教えてくれて、ネットでも売れるんだって刺激を受けましたね。それで、出店依頼を送ったんです」
2001年、篠さんは楽天にホームページを開設した。しかし、プランタンやテレビでの人気とは裏腹に、ぜんぜん売れなかった。
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命かけてやる!
「最初の反響はまったくなし。1日のアクセスは40で、月の売り上げは2万円でした」
篠さんがホームページを立ち上げた2001年の8月は、楽天には8000を超える店舗があり、82万点の商品が並んでいた。商品がクリックされる確率は限りなく低いものだった。またその当時、楽天の契約金は1年分前払いだった。そして、ネットのことを知らない篠さんは、すでにホームページの制作で4ヶ月を無駄にしていた。
「主人にもうやめろ!といわれたんです。でも悔しい。『わかった!私はこれに命かけてみる。払った手数料を取り返すだけのがんばりを見せてやる!』って言ったんですよ。そこからの1年間は睡眠2時間という生活でした(笑)」
その日から篠さんは、1日に7回は楽天に電話をしたという。
「どうしたら売れるかって相談したんです。担当者はまず『ページが悪い』って言ってきたんですよ。楽天の勉強会では、ページが売り上げの2割、メルマガが7割を占めるって教えてもらったから、『そんなのおかしい』っていったら、『悪すぎる!』って(笑)」
担当者に推薦してもらったサイトを参考にして、4ヶ月かかったページを3日で作り直した。←

 

篠さん開発スウィーツ
プランタン銀座で見つけた、篠さん開発のスウィーツ。
(1)カフェクリームを使った「デセールカフェ」
(2)クリームチーズとバナナの入った「デセールシナモン」
(3)黒ごまクリームときなこの「デセールジャポネ」
(4)チョコと栗のコンビネーション「デセールマロン」
(5)「なすのミルクプリン」(限定品)

コラム
篠さんプロフィール
篠さんしの・なおよ
東京・下井草で生まれ育つ。小さい頃から日舞を本格的に勉強し、師範の資格を有する腕前。「お茶、お花、三味線などの免状も持っています。1人カルチャーセンターですよね!」 40歳。
www.rakuten.co.jp/siriaru/
フレンチトースト
最初に代官山で出したフレンチトーストは、手のひらぐらいの大きさに切ったフランスパンのフレンチトースト。パン2枚をお皿に盛り付けて、ソースを美しくかけて出していた。この料理は、篠さんが小学校低学年のころ見た、テレビの料理番組「食パンの耳で作るフレンチトースト」がきっかけ。材料が覚えられず、おしょうゆなど家にあった調味料を使って作った人生最初のフレンチトーストはとてもまずかったという。以来、おいしいフレンチトーストを作り続けてきた。現在は、「パンペルデュ」という商品名で販売されている。
新宿伊勢丹での催事
初日、ベルギーワッフルが1日に2000個売れていると聞いた篠さんは、800個のフレンチトーストを用意。しかし4時間で完売し、追加の400個も18時で終了してしまった。「足りなくしないでください」とデパートから言われて篠さんは徹夜で作り続け、1日1700個を販売していた。
ジンジャップルのアイディア
アップルパイの中にガリが入ったジンジャップルは、回転寿司屋でアイディアが沸いた。ピンク色で甘酸っぱいガリがお菓子に合わないかな、と篠さん思ったという。家に帰ったところ、りんごが届いていて、りんごのシャリシャリ感とガリのシャキシャキ感が合うとピンときたそうだ。
ジンジャップルの販売
プランタン銀座ジンジャップルは、11時、14時、17時という具合に時間を決めて販売した。
「あっという間に大行列になりました。ここで終わりですと伝えると、後ろの人たちは『なんとしてでも買いたい』という心理になるんですね。次の販売まで3時間、多くの方が立ったままで待ってらっしゃったんです」
娘に頼まれた出張中の父親が、お土産購入に並ぶことも多かったそうだ。
ポストペット
ホームページが立ち上がる前、楽天のプレゼントコーナーにシリアルマミーが登場し、3000通のメールが届いたことがあった。ポストペットしかメールソフトを知らなかった篠さん。飼っていたペンギンが激しく出入りするため、「ギンゾー(ペンギンの名前)が家出しちゃう!」と楽天に電話したそうだ。この話しは今でも楽天で有名だとか。
自由が丘スイーツフォレスト
およそ12人のお菓子職人が出店するフードテーマパーク。シリアルマミーは売り上げナンバーワンも記録する。「(あたたかい)デセールキャラメル」「おかじゅう」など、自由が丘限定商品がある
www.jiyugaoka2.jp/~sweetsforest/
今後の展開
2004年1月から展開するのは、「こだわりシェフの手作りプリン」シリーズ。テイクアウや単品注文ができないレストランのプリンを、ネットで限定販売する。4 人のオーナーシェフたちが、定休日を利用して作るというプリンだ。
 
 
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