◆ b-shoku.jp ◆
Project B/1月 vol.2「B食を生み出した男」
Photograph: Akihiko Sonoda  
ペットボトル緑茶の基本ソフトを変えた
高温で緑茶を殺菌しない方法
「お茶を知っている人から見たら、今までのペットボトルの緑茶というは、首をかしげたくなるような作り方なんですよ。そもそも急須でいれたお茶は一晩で飲めなくなるのに、ペットボトルは賞味期限が8ヶ月もあるわけですから」
そう話す沖中さんは、サントリーで9年近くに渡って緑茶飲料の開発に携わってきた。「しみじみ緑茶」「熟茶」「中国緑茶」など、手がけたお茶はさまざまだ。
「ペットボトルが賞味期限を長く維持できるのは、缶詰の技術を応用しているからです。85度℃の熱でボトルごと加熱殺菌して、バクテリアなどを排除します。いわば、煮立たせたお茶なんですよ。
それでも、100度℃を超えて生きている耐熱性菌がいます。この菌はお茶の旨み成分を餌にして増殖するものですから、旨み成分を控えてカテキンを多くしたお茶、つまり薄くて渋いお茶しか作れなかったんですね」
薄くてちょっと苦いペットボトル緑茶の味を、沖中さんはそう説明した。
ある製品は、茶葉にたくさんの火入れをして、香ばしくて飲みやすい緑茶にしていると。また、他の製品については、「香料を入れることによって、青っぽいお茶を作ったんですね。旨みのあるお茶がなかったから爆発的に売れました。しかし香料を使うと、飽きられやすいというリスクもあります」と説明する。
「長く愛されるお茶を作るためには、茶葉本来の旨みを出さなくてはならないと考えました。そのためには、これまでのやり方ではだめなんです。こだわりの茶葉と水の旨さを生かすためにも、製法のOSから作り直したかったんです」
歴史に根ざした確かな本物感、信頼感、親しみやすさを表現して「伊右衛門」と名付けられた。
伊右衛門のボトリング風景。「無菌充填ルーム」と呼ばれる場所で、非加熱で充填される。
「8代目にあたる福井正憲社長に、新製品の共同開発をお願いしたところ、“うちのお茶は事業ではありませんねん。家業ですねん。そんなリスクが負えますかいな”と断られました。飲料の世界って、1000の新製品がでても、秋まで持つのは3つと言われているんですよね。997は消えてなくなるわけです。さらに、翌年の秋までとなれば1/1000の確率。たしかに投資家だったらぜったい手を出しませんよね(笑)」
その福井社長を翻意させたのは、“もの作りのOSから変えますから!”という情熱と説得だった。そして福寿園の茶匠、谷口良三さんとサントリーの中味開発者が協力して、伊右衛門の茶葉のブレンドが行われた。
「お茶は農産物なんです。産地や天候の違いで味が違います。異なる産地の茶葉と異なる火加減の茶葉をブレンドすることによって、お茶の味を一定に保つことができるんです。日本全国から集めてきた70種類以上の茶葉を、谷口さんは1グラム単位でブレンドしました」
まさに匠という言葉がぴったりの谷口さんは、おだやかな方で茶農家にも慕われているという。
「お茶の世界は人と人のつながりが大切。今は国産茶葉の争奪戦なんていわれていますが、谷口さんや福寿園さんの長年の人間関係があるので心強いです」
そうして選ばれた茶葉に、こだわりの水抹茶を使ってお茶を抽出。それをこだわりのペットボトルに入れ「伊右衛門」は完成した。名前は福寿園の創業者、初代福井伊右衛門にちなんで付けられた。
▲
?NS》g
2000年の構想から4年。やっと完成した伊右衛門は2004年3月に出荷された。沖中さんがこだわったお茶は、緑茶本来の自然な旨みと渋みを持ち合わせたもの。無香料でさっぱりとしているのも特徴だ。「急須でいれたお茶のさわやかな味わいがありながら、さっぱりとした後味が今までになくおいしい」と、当初1500万ケースだった販売計画(12月末まで)を3400万ケースに上方修正するほど売れている。また、10月末に達成した(販売数量)2600万ケースは、清涼飲料業界の新製品初年度販売数量としては過去最大ともみられている。
沖中さんは、緑茶飲料への思いをこう話してくれた。
「お茶はすごく面白いです。約3兆円といわれる清涼飲料市場の上位を占めているのは、お茶、コーヒー、コーラです。この3つに共通するのは、ストレスを減少してくれるカフェインを含んでいることなんですよ。カフェインはそのままでは苦いので、コーヒーやコーラの場合は砂糖を入れて飲ませている。お茶だけは酸化発酵でストレートで飲める。しかもカテキンとかポリフェノールなどの成分も入っているわけで、なんてよく出来た飲みものなんだろうと思いました。“ストレス社会”とか“不安な時代”といわれている現代、お茶のブランドを作ることは、とても意義のあることではないでしょうか。
そして、サントリーとしても強いお茶ブランドを育てるべきなんです。うちは、お酒を飲むシーンに生活文化があると考えてきた会社です。飲料を生活文化にまで昇華してこそ、この会社の社会的価値だと思うんです。お茶というのは日本人の文化そのものですから、そういう日本古来のもので生活文化を高められるようにしなくてならないと考えています」
福寿園の福井社長の知人がこう話したそうだ。
「最近、葉っぱでお茶を飲まなくなったんだよ。伊右衛門が手軽でおいしいから」
「それを聞いて福井社長は、“それでは困る!”といったそうですよ」
最後にうれしそうに、沖中さんはそう話してくれた。

▲

 

御殿場のB食店
ろくもんや
太龍ラーメン兵庫県出身の沖中さんおススメのB食店はお好み焼き屋。「ろくもんやはうまい!いつも混んでいます。モダン焼きがおススメかな」 (沖中さん)
*お店のレポートは編集ぶろぐへ
ろくもんや
TEL. 03-3356-6824/東京都新宿区新宿3-35-13 裕永ビルB1F/営業:17〜23時(日16〜22時)/年中無休
http://www.rokumonya.com

編集ぶろぐへ

「今の消費者の方々は舌が肥えてます。お茶の味はごまかしが利かないと僕は思うんです」と沖中さん。
沖中さんの頭の中に新しいOSが思い浮かんだのは2000年。85度℃で殺菌しなくてもいいように、無菌状態でペットボトルにお茶を詰める製法の開発だった。
「ペットボトルの麦茶が似たような作りを既にしていましたので、サントリーとしてはある程度の技術やノウハウを持っていました。しかし本格的にやるには、ラインの新設や付帯設備など、相当の投資を要求されます。会社もよく意思決定をできたなって思いますよ(笑)」
無菌ルームを作り、常温(30度℃前後)にて緑茶をペットボトルに充填する。それが沖中さんのいうハイグレードな新OSだ。この方法であれば、旨み成分の多い茶葉をふんだんに使い、いままでにないおいしさでありながら、ペットボトルとして長く品質を保持できる緑茶飲料を作ることが出来る。
そして沖中さんは、製法以外にも徹底したこだわりを持っていた。
▲
"本物のお茶"と思ってもらえるためには
「伊右衛門を開発する前の調査では、緑茶飲料の7割を30〜60代の男性が消費していて、多くの方が「おーいお茶」を飲んでいらっしゃいました。その一方で、サントリーのお茶は認知度が低く、ブランドを確立できていない。“どのようにサントリーのお茶は作られていると思いますか”という調査をしてみたら、“ウーロン茶の隣で”などと、緑茶の品質イメージが出てこなかったんですね。この状況の中でサントリーが緑茶を語るのには限界がある——調査の結果を見て沖中さんはそう感じたという。
「茶葉は老舗のお茶屋さんに任せないことには、“本物のお茶”とお客様には思ってもらえない。そこで200年の歴史を持つ福寿園さんを訪ねたのです」
日本にお茶が入ってきたのは805年。鎌倉時代の茶道の確立から現在に至るまで、お茶は日本の歴史に君臨してきた。100年以上の歴史を持つ全国のお茶屋さんから見つけたのが、京都の福寿園だった。寛政2年(1790年)創業の老舗茶屋で、全国に契約農家を持ち、自社の加工工場もある。
ボトルは昔の水筒である竹筒をイメージしてデザインされた。
赤坂のサントリー東京支社(左側のビル)は、来年1月にお台場に移転する。併設されているサントリー美術館は場所を変えて2007年にオープンの予定。
コラム
沖中さんプロフィール
沖中さんおきなか・なおと
サントリー(株)食品事業部課長。
原料調達に関わる部署を経験して96年より食品事業部へ。以来、緑茶飲料の商品開発に携わる。ウーロン茶のブランドマネージメントなども務めるが、現在は伊右衛門をいかにメジャーな商品にしていくかが課題だという。37歳。
茶匠
谷口さん福寿園の茶匠、谷口良三さん(49歳)は宇治の茶農家出身。茶葉の仕入れ、検品、鑑定、ブレンド、火加減の指導などを毎日おこなっている。沖中さんはこう話す。「茶農家に出向いたときに、谷口さんは言い値より高い値段を付けてもいいとおっしゃるそうです。でも、“そのかわりこの品質をもっとあげてくれ”と。それほど茶葉の品質にはこだわっていらっしゃるんですね」
福寿園
寛政2年(1790年)に福井伊右衛門が現在の京都府山城町にて創業。直営店やデーパート出店の形で、全国各地でお茶を販売。90年には関西文化学術研究都市に「福寿園CHA研究センター」を竣工し、お茶文化への普及にも力をいれている。
こだわりの水
伊右衛門の水は、利休が茶室を建てた京都・山崎の天然水。硬度約80mg/L(「サントリー天然水 南アルプス」は約30mg/L)。適度な硬度は、お茶のコクや旨みがうまくでるという。伊右衛門は山崎の天然水で抽出したお茶と、イオン分解した純水で抽出したお茶をブレンドしている。「茶葉も抽出もブレンドするというのは、もうウィスキーと同じ考え方です。“伊右衛門の味は複雑でのみ飽きない”とよく言われています」と沖中さん。
こだわりの抹茶
伊右衛門の甘味は抹茶からきている。抹茶が沈殿して固まらないように、お湯で溶いた抹茶を遠心分離して超微粒子化している。1ミクロン以下になった抹茶(石臼挽き茶葉)は、ボトルの中で沈むことはない。
こだわりのボトル
竹筒をイメージしてデザインされたペットボトル竹筒をイメージしてデザインされたペットボトルは、型から作った特注品。「もっとも旨そうに見えて、実際も本当においしいお茶をつくろう」というコンセプトのもと、思わず「うまそう!」と手がでるようなボトルを熟考。竹筒に入っていたらおいしそうに感じるはずだとこのデザインになった。ひょうたんのようなものも作ってみたが「焼酎をイメージする」と却下になってしまった。
サントリー緑茶  伊右衛門(いえもん)
500mlペットボトル/140円(税抜き)
2Lペットボトル/330円(税抜き)
http://www.suntory.co.jp/softdrink/iemon/
O
S???0??£?ign=伊右衛門(リーフティ)
*全国のスーパーなどで福寿園グループより販売
抹茶入り煎茶100g/600円(税抜き)
抹茶入り玄米茶200g/400円(税抜き)
 
 
▲