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Project B/12月 vol.1「B食を生み出す男たち」

Photograph: Akihiko Sonoda  

おいしいチューハイを開発する、ウィスキーのブレンダー

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 「御殿場は水がきれいで豊富なんです。ここはウィスキーやウォッカの蒸溜所ですが、キリングループの商品開発も行っています」
 10月の終わり、雪をかぶり始めた富士山の麓で鬼頭英明さんは話し始めた。小雨が続いた秋だったが、この日は秋晴れに恵まれて富士山は青空にくっきりと映し出されていた。鬼頭さんは、静岡県御殿場市の蒸溜所「キリンディスティラリー」に勤務するブレンダー。所属部署は商品開発部になる。主な仕事はウィスキーのブレンドとその品質管理だが、「キリンチューハイ 氷結」が誕生してからは、彼の仕事の半分以上が氷結における味の開発になったという。
 「ここでは、ブレンダーが新商品の開発も勤めます。もともとこの会社では、キリングループで販売している酒類のうち、ビールと発泡酒以外のお酒の開発を行なってきました。ですので、ウィスキー以外のいろいろなことも考えています」
 氷結は5年前に、以前上司だった和田 徹さんと一緒に開発した。
 「おいしいチューハイを作ろうよ!と和田がもちかけてきました。そこで2人で試行錯誤して作ったのが氷結です。彼が試作品を東京のキリンビール本社に持っていき、キリンビールの低アルコール市場での事業拡大のニーズと相まって商品化が決定したのですが、当時のキリンビールにとって低アルコール飲料は未開拓の分野でした」
 キリンには、チューハイ、サワー、カクテルといった低アルコール飲料がほとんどなかった。氷結でチューハイ市場に本格参入することになったのだ。
高さ20メートル、奥行き50メートルの熟成倉。赤い柵の裏には、計3万5000個のウィスキー樽が静かに眠っている。
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隠れた主役、香料
 「新味の開発は常に行っています。年に3つのフレーバーを出せればいいのですが、時間がかかるものもあります」
 マーケティング担当者と新フレーバーを決定したら、約2ヶ月かけて味を作っていく。その後、調査やテストなどを経て、早ければ半年あまりで商品が誕生する。しかし、鬼頭さんは納得いくまで開発に時間をかける。
 「シャルドネスパークリングは2年かかりました。思ったとおりの香りが出なかったのです」
 香りとはブレンダーらしい発言だった。氷結の香りは香料の専門家が担当している。
 「何度作ってもらっても、私がイメージしたものが出てこないんです。欲しかったのは、カリフォルニアの日当たりの良いワイナリーで作られたシャルドネ(ワイン)の香りです。厳密に言えば、それが樽ではなくタンクでの発酵が終わる頃の味と香り。パイナップル、洋なし、リンゴ、白い花を連想させるフルーティでフレッシュなものです」
カリフォルニアでワイン醸造にも携わっていた鬼頭さんのこだわりの香りである。
 「むこうに行ってもらうわけにもいかず、イメージに近いカリフォルニアとドイツの白ワインを渡して、こんな感じです!とお願いしました(笑)。なんとかできあがってよかったです。味も、ワイン用のぶどうを使っているので本格的です」
 ブレンダーがぶどうと香りに特別なこだわりを見せた氷結は、プレミアムフルーツシリーズとして発売された。そして鬼頭さんは、2年以上かけてもまだ生まれていないフレーバーもあると笑う。
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コラム
鬼頭さんプロフィール
きとう・ひであき
鬼頭さんキリンディスティラリー株式会社のブレンダーで商品開発部担当課長。1989年4月キリン・シーグラム株式会社(現 キリンディスティラリー)に入社し、御殿場工場にブレンダーとして配属される。91年よりカリフォルニアにてワインの勉強とワイン作りに携わり、93年に御殿場に戻る。ワインアドバイザーと焼酎アドバイザーの資格を持つ。40歳。
氷結ラインナップ
氷結果汁は3つのシリーズに分かれる。
【1】レギュラー
定番フレーバーの氷結。レモン、グレープフルーツ、ウメ、ライム、グリーンアップルがある。
350ml缶140円/500ml缶190円(各消費税別)
【2】プレミアムフルーツシリーズ
厳選されたプレミアム果実を使用した氷結。シャルドネスパークリング、ホワイトビーチスパークリング、バレンシアスパークリングがある。
350ml缶150円/500ml缶205円(各消費税別)
【3】冬季限定
毎年11月に販売されるシリーズ。02、03年は「アップルヌーヴォー」。今年は「ラ・フランス スパークリング」を11月10日に発売。
350ml缶150円/500ml缶205円(各消費税別)
氷結の名前と缶
発売当初の商品名は「キリンチューハイ 氷結果汁」だったが、02年4月より「キリンチューハイ 氷結」に変更。あわせて缶のデザインも、「お酒」の文字を強調したものに。氷結のパッケージはダイヤカット缶で、開けると表面にダイヤの形をした凹凸ができる仕組みになっている。
チューハイとは
お酒に果汁、フレーバー、お茶などを合わせて、炭酸で割った飲料。サワーとも呼ばれる。この場合のお酒は、焼酎やニュートラルスピリッツ(原料用アルコール)に限らず、ウォッカやジンなどの蒸留アルコールも含まれる。カクテルとはアルコール度数で差別されることが多く、チューハイはアルコール度数10度以下の低アルコール飲料。
低アルコール飲料
酒税法上の定義はない。一般的にアルコール度数10度以下で、酒税法上の分類「リキュール類」「甘味果実酒」が低アルコール飲料と呼ばれている。
ブレンダーの仕事
ブレンダーブレンダーは、年ごとに造られたウィスキーをテイスティング、ブレンドし、商品の味を一定に保っている。テイスティングは、アルコール度数50〜60度のウィスキー原酒を水で20度にまで薄めて行われるが、最初は鬼頭さんもアルコールの刺激で鼻と口が痛かったという。このほかブレンダーの仕事には新商品や味の開発、そして原料の予算管理などがある。10月から12月にかけては、来年や何年も先の製造量を見越して、原酒の仕込計画を立てる。ブレンダーにとって一番大変な時期だ。(写真は若い頃の鬼頭さんと、師事した師匠の荻野一郎さん)
キリンディスティラリー
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キリンディスティラリーのある場所は、東名高速・御殿場インターから10分ほどの富士山の麓。この一帯は、溶岩や火山灰の層が100mの深さで形成され、天然のろ過フィルターの働きをしている。太平洋からの湿った空気は富士山にぶつかって雨となり、この地層に大量の水を送り込む。このため、地下100mには清らかで豊富な伏流水がある。この水を利用して、ウィスキー、ウォッカ、ジンなどの蒸溜、氷結シリーズの製造などが行われている。蒸溜所見学(無料)もできる。www.fujigotemba.jp
鬼頭英明さん。蒸溜所の屋上からは、絶景の富士山を望むことができる(関係者以外立ち入り禁止)。
こだわりの特注果汁
 2001年7月11日、氷結果汁フレッシュレモン(現 氷結レモン)と氷結果汁フレッシュグレープフルーツ(現 氷結グレープフルーツ)の2アイテムで氷結の全国発売が開始された。当時、国内の低アルコールの50%をレモン味が、25%をグレープフルーツ味と、サワーやチューハイにおけるフレーバーを独占していた。試験販売の結果、すでに100万ケース(350ml缶×24本 換算)という低アルコール商品としては異例の大きなオーダーが見込まれていたが、わずか1ヶ月で250万ケースが出荷され、予想を大きく上回った。年間販売予定は400万から600万ケースに上方修正。御殿場工場は缶ラインを新しくし、休日を含む3交代制というフル稼働製造になった。
 「現在は、岡山、湘南、栃木の工場でも製造しています。今では、低アルコール商品におけるグレープフルーツのフレーバーシェアはかなり増えました。これは氷結のグレープフルーツによるところが大きいと言えます」
 そんな人気の理由は、やはりフレッシュ果汁のおいしさだと鬼頭さんは言う。
 「飲料で使われる果汁の多くは、濃縮果汁です。これは果汁を1/5以上に濃縮したもので容積も1/5以下。果汁の値段の大きな部分を占める輸送料がグンと安くなるため人気なんです。ただし濃縮果汁の場合、加熱によって劣化が生じ、味が落ちます。どうしてもおいしいチューハイを作りたかった我々は、濃縮をしていないストレート果汁を採用したのです」
 劣化した濃縮果汁には焼き芋のような劣化臭がある、と鬼頭さん。新鮮な味と香りを果汁に求めたブレンダーは、産地で搾って氷結する「ストレート果汁」にこだわった。
 「ストレート果汁の場合、輸送量は濃縮果汁の5倍以上になり、さらに冷凍コンテナで運搬します。工場に到着してからは冷凍倉庫が5倍以上かさばることもあり、コストは本当にかかります。でもストレート果汁ならではの味わいとフレッシュさが、そこにはあるのです。氷結の果汁は産地と直接契約した特注品。“搾りたての果汁に炭酸を加えた飲み物”を基本に開発しました。お酒というよりも果汁を飲むイメージですね」
 氷結の爽快なおいしさは国民的な人気となり、売り上げ累計は20億本(2001年7月11日—2004年9月3日/350ml缶換算)となった。フレーバーも増え、グリーンアップルを含むと現在9つの味が出ている。
キリンディスティラリーは1973年11月に創業された。ウィスキーのほか、ウォッカやジンの蒸溜なども行っている。
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 氷結を食事に合わせる人もいれば、肴なしでそのまま飲む人もいる。そもそも、これはどんな料理にも合う、と鬼頭さんは話す。
 「氷結のベースアルコールはウォッカです。焼酎ではありません。ウォッカベースの柑橘系のお酒というのは、何にでも合うんです。日本酒やワインのように料理を高めるということはありませんが邪魔もしません。すっきりと口を洗い流してくれます。あじの開きでも、パスタでも、鍋でもいけますよ」
 ライムがもっとも食事に合うと思う、とも。
 「氷結のライムは、料理に合わせられるように甘さを抑えて開発しました。通常、甘味を下げるとアルコール刺激が強くなってしまうのですが、そこを工夫しました。甘さを控えながらもアルコール感のない仕上がりになっています」
 鬼頭さんは食べることも飲むことも大好きだ。いろいろなものを食べて匂いを嗅ぐことが、ブレンダーの大切な仕事だ。
 「よく、“辛い食べ物やタバコは味覚を壊すから良くない”といわれますが、そんなことはないと思います。舌がセンサーなら、脳は情報を処理する場所。いろいろな物を食べて、感覚と記憶のトレーニングをして脳を鍛えることが大切です。そもそもウィスキーだってタバコと一緒に飲んだりするわけですから、双方のことを知っていないとだめですよね。私は気にせずなんでも食べます。おいしい物が大好きなんですよ(笑)」
 自宅の庭では、お酒に入れるライムを育てているという鬼頭さん。そんな食へのこだわりをもったブレンダーから氷結は生まれたのだ。
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御殿場のB食店
鍛えられた舌と鼻を持つ鬼頭さんおススメのB食店!
【1】太 龍
本場朝鮮半島の方が経営する焼肉レストラン。「参鶏湯(サムゲタン)は本国でも食べられない良さがあります。ぜひ一度味わっていただきたい。また、太龍ラーメンは辛いですが、味噌味が絶品です」(鬼頭さん)
*参鶏湯は1鍋3〜5人前で1万円。要予約
たいりゅう
TEL. 0550-89-0816/静岡県御殿場市中畑1684-8/営業:11時30分〜翌2時30分LO/無休
太龍ラーメン太龍ラーメン(900円)
唐辛子の辛さが利いている人気のラーメン。キムチ、ニラ、もやしがたっぷり入っていて、チゲ鍋を連想させる。チャーシューの変わりに入っているのは、こぶし大の骨付き牛スジ肉。山盛りの具を崩していくと、太い手打ち麺が見えてくるというボリュウム。味噌、塩、しょう油味がある。注文して20分以上待つ。
【2】二の岡ハム
ハムで有名な御殿場の中でも一番小さな二の岡ハムは、70年以上の歴史を持つ。ネット販売が主流だが、工場(農家)の店先に設けられた小さな小屋で、購入することもできる。すべて手作り。鬼頭さんのおススメは、スモークされたベーコンだ。
二の岡フーヅ(有)二の岡フーズ
TEL. 0550-82-0127/静岡県御殿場市東田中1729/営業:9〜18時/休:火曜/www.ninookaham.co.jp

ベーコン(370円/100g)
桜の木でいぶされたベーコンは、食べれば一日中スモークの香りが口に残るほどの深い味わい。生でも食べることができる。

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