 | | ヴィオロンはフランス語でバイオリンの意味。 | お 客が会話をしない喫茶店がある。大きなスピーカーに向かって椅子に座り、じっとクラシック音楽を聴く——「ヴィオロン」は、今では数少なくなった名曲喫茶のひとつだ。JR中央線・阿佐ヶ谷駅から西に延びる、「スターロード」にある。狭い路地に飲食店が並ぶ商店街の奥、店よりも住宅のほうが多くなったあたりに見えてくる。ツタの絡まった一軒家だ。 |
| ヴ ィオロンは、1980(昭和55)年にできた。名曲喫茶が盛隆を見せたのが昭和30年代ならば、ここは新参者といえるのかもしれない。しかし、この店には50年前の名曲喫茶の要素が、たっぷり盛り込まれている。音響装置、レコード、メニュー、そして雰囲気だ。明かりが落とされた薄暗い店内は、雨の日でも、窓から射す光を眩しく感じる空間。革張りの椅子のほとんどはスピーカーに向かって並び、そこで本を読んだり目を閉じたりしているお客の姿がポツンポツンとある。クラシックオルガン、2号自動式壁掛電話機(昭和初期の電話機)、フロア型蓄音機など、店内に飾られているのは年代物のアイテムばかりだ。ほのかな明かりがアンティーク家具を照らす中、ボリュウムをあげたクラシック音楽が流れている。 |
 | | アンティークがひしめく店内は重厚な雰囲気。ホーン型のスピーカー(写真右下)は、いたるところに飾られている。 | |
 | | スピーカーの前(写真正面)にあるのは1926年製の蓄音機。月に一度、この蓄音機を使ってコンサート(レコード鑑賞会)が開かれている。 | 店 の奥を占める、大きなスピーカーは、マスター、寺元さんの手作りだ。上には、筒が末広がりに広がった、ホーン型スピーカーが6つ乗っている。音を増幅させるアンプも、古い大きな真空管が並んだ自作の逸品。今では手に入りがたい1930〜40年代の仕様の真空管など、スピーカとアンプの部品の多くは、わざわざドイツやフランスに出向いて手に入れたという。これらのオーディオシステム——名曲喫茶が流行った時代の言葉を借りるなら「ステレオ装置」——を使って流れるクラシックは、バイオリン音楽が多い。マスターの大好きな楽器だ。「バイオリンは本当にいいですねぇ。でもまったく弾けないんですよ(笑)」と小声で話してくれた。クラシックを愛しているが演奏はできない。だから、そのよさをレコードで伝えようと店を始めたそうだ。もちろんリクエストにも答える。詳しくない人でも、時代や国、好きな楽器などを言えばマスターが選んでくれる。自分の生まれた年でもいい。縁のあるレコードを探してきて、ステレオ装置でかけてくれるだろう。 |
 | | コーヒーは、(運んできたときに)ブランデー(写真右)かミルクを入れてくれる。 | メ ニューはいたってシンプル。コーヒー、紅茶、ミルク、ココア、オレンジジュース、コーラ(以上すべて350円)と自家製ケーキ(250円)だ。コーヒー1杯で何時間でもいられる。食べ物の持ち込みも自由である。そんなシステムも昔の名曲喫茶と一緒。違うのは、コーヒーの値段が安くておいしいことかもしれない。名曲喫茶のコーヒーは今の1000円(1杯)ぐらいだったという。また、その味はとても薄かったとか。しかし、LP1枚が大学初任給の1割もした時代だ。コーヒー1杯で何時間でも音楽が聞けたのだから、それでもありがたかったに違いない。ヴィオロンのコーヒーは濃くて深い味わいなので、レコードに耳を傾けながら、ゆっくりと飲みたくなるだろう。「クラシック音楽を楽しんでもらいたい」というマスターの思いが伝わってくる喫茶店。雨の降る午後、真空管アンプから流れる暖か味ある音が、やさしい気持ちにさせてくれる。 |
 | | | | TEL. 03-3336-6414 | | 東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-9-5 | | | 定休日:火 | | | | |
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