銀鱗は「銀色のうろこ」のことで、転じて「魚」を意味する。
銀
鱗(ぎんりん)」は、口数の少ない親父さんと、元気なおかみさんが2人でやっている店。飲食店がところどころに顔を出す、東京・池尻大橋の旧国道246号沿いにある。洒落たイタリアンやカラオケスナックなどいろんな店が入れ替わる中で、10年前から居を構えるシンプルな内装の居酒屋である。
い
らっしゃい!」元気のいい声をかけてくるのは、親父さんではなく、エプロン姿の奥さんだ。店主である親父さんは、カウンターの奥で黙って包丁を握っている。店内は、4人でいっぱいになるカウンターに、25名ほどの座敷から成る。カウンターはたいてい常連さんでいっぱいだ。力士のカレンダー、扇風機、ブラウン管のテレビ、色あせた襖、掛け軸、絵本——まったく飾り気の無い店内は、誰かの家に遊びにきたようだ。座敷席の座布団に座れば、横になりたくなる人もいるだろう。
「書いてないけど、今日のおすすめには、タイもあるからね!これは刺身がいいから!」おかみさんは元気で頼もしい。一方、店主である親父さんは、黙々と仕事をしている。
カウンター席では、親父さんの仕事が良く見える。
座敷は襖で間仕切ることができる。
親
父さんが握っているのは刺身包丁だ。新鮮な魚介類を中心に出すこの店では、刺身包丁が主に活躍する。食材は旬のものばかりで、今の時期、カウンターの上で客の目を奪っているのは大皿に盛られた岩ガキ。海藻や貝を殻に付けた20cmほどの閉じた岩ガキは、ゴツゴツして本当の岩のようだ。壁に貼られた今日のおすすめ料理から、「岩がき」(1300円)を見つけて注文する。ひっくり返されたパール色の殻に大葉を敷き、その上にぽってりとした身が乗っている。4つに切られた、岩ガキの刺身だ。包丁を入れても型崩れしないほど、身が大きくてしっかりしているのは岩ガキの特徴だ。
「今日のはちょっと小ぶりだけど、味はいいよ。天然モンだよ」あまりしゃべらない親父さんが、やさしく話しかけてくれる。ちょっと嬉しくなったところで、ワケギ、モミジオロシ、醤油を付けて食べる。三重・志摩で捕れたという天然岩ガキは、磯の風味も、クリーミーな味わいも、どちらも濃厚。弾力のある歯ごたえも印象的である。グリコーゲン、タウリン、亜鉛の豊富な「海のミルク」を、冬以外でも味わえるのは至福である。
岩ガキは、マガキよりも塩分の濃い海水に生息するため、磯の風味が強い。
上から「天然ほや」「土なべで煮る肉どうふ」「大和芋の磯辺あげ」。
親
父さんがこだわるのは天然ものだ。岩ガキや刺身のほか、「地ダコ」(800円)や「天然ほや」(900円)などもこの店のウリである。とくに、天然のホヤは珍しいとおかみさんは話す。
「色が違うんだよね。養殖はオレンジ色なんだけど、青森の天然は赤くてイボが小さいんだよ」
見せてくれた青森産の天然ホヤ貝は、きれいな赤色に1cmほどのイボがところどこについている。香りがいいのも特徴というだけあって、捌かれたホヤは、やわらかくて磯の風味が印象的だ。たっぷりとポン酢を付けて味わう1品だ。その他、ホッとする味の「土なべで煮る肉どうふ」(750円)や、「大和芋の磯辺あげ」(600円)というひと工夫されたものなど、魚以外にも旨い料理がたくさんあるので、ぜひ試してもらいたい。
「この人は無口だから、私がその分話してんだよ!」とおかみさんが言ったら、「俺は、これがあればいいんだよ」と包丁を見せて、親父さんは笑っていた。
TEL. 03-5481-5418
東京都世田谷区池尻2-30-13
営業:17時〜24時
定休日:日
青森県陸奥湾以南から九州にかけて、日本各地に分布する岩ガキ。天然で有名な産地は、秋田県象潟(きさかた)や千葉県銚子などだ。岩ガキは、10数年前までは天然ものしかなかった。しかし、近年では人気が高まり、養殖の研究が進められた。その背景には、漁獲量の減少や小型化が危惧されたため、岩ガキの保護を目的としたこともある。平成4年に鳥取県隠岐で、岩ガキの種苗生産と養殖に成功。以来、新たな増養殖対象種として全国で期待され、自治体や民間の間で漁獲試験や養殖試験が開始されている。通常、天然の岩ガキは3〜5年で300gほどに成長するが、養殖の場合、1.5〜3年で同じ大きさになるという。
アルコールは、生ビール(中ジョッキ/500円)、熱燗(1合/650円)、冷酒「八海山」(1合/800円)、焼酎「二階堂」(ボトル/3000円)などがあります。写真は、おかみさんおすすめの芋焼酎「心水」(ボトル/3000円)。「メニューに載ってないけど他にもあるから。聞いてちょうだいね」とのことでした。
魚はその日の仕入れによってずいぶん違います。お刺身がおすすめで、人数や好みに合わせて盛り合わせてくれます。5点盛り合わせ(2〜3名)」(2800円)などがあります(写真は地タコ、アイナメなどの3点盛り)。
野菜も旬のものばかりです。この日は筍がありました。下の写真は、人気料理の1つでもある「鯛かぶと煮」(1000円)。大きくて迫力満天!
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