 | | 洋館に静かにゆれるのれん。 | ホ ンモノの味や遊びを知る通人達が愛してやまない街、神楽坂。メインの神楽坂通りから無数にのびる路地には、今も花街の粋な風情が漂っている。「大〆(おおじめ)」は、明治43年の創業から95年間、この地で真摯に仕事を続ける大阪寿司専門店だ。のれんに引き戸という「寿司屋」を思い描いて探すと見逃しかねない。路地裏の南仏風の洋館が大〆である。小さな看板を目印に建物の隙間の小道をぬって進むと、旗のように揺らぐのれんが手招きする。 |
 | | 暖かな光に包まれたクラシカルな空間だ。 | 館 の中に漂うのは、寿司屋の背筋伸びる緊張感ではなくダイニングの温かみだ。丁寧に手入れされた鈍く輝くテーブルとチェアー、イタリアの風景画、伊万里焼きの器などがゲストを迎えてくれる。 |
 | | 朱塗りの器の中に華が咲き乱れるよう。 | 屋 台発祥の江戸前握りは当時のファーストフードなどとも言われているが、大〆の大阪寿司はスローフードと言えよう。「ちらし寿司」(3500円)は、甘く煮締めた白身魚、塩茹でのエビ、昆布で締めた鯛やサーモン、甘酢蓮根などを使い、切ってのせただけというネタはひとつも無い。華やさの中には、ひとつひとつ手間隙がかけられている美しい寿司だ。 |
| さ て、「むし寿司」(2500円)は穴子などが入った酢飯の上に錦糸卵を乗せ、陶器の入れ物ごと蒸しあげたもの。アツアツのフタをあけると、ふわりと立ち上る湯気、そして鼻腔くすぐる香りに包まれる。目に飛び込むのは、なんとも鮮やかな錦糸卵の黄色だ。きめが細かくどこか洋菓子を連想させる味わいであるが、単純な砂糖の甘さではない。奥ゆかしいコクと風味に満ちていて、なかなかお目にかかれぬ極上モノである。また、糸というよりも平打ち中華麺ほどの大きさの卵焼きが、1本ずつが重なりあうことで生まれる独特の弾力も面白い。このたっぷりの錦糸卵の下に待ち受けるのは、新潟産コシヒカリを昆布ダシで炊いたという寿司飯に、細かく切った穴子(3月~10月半ばは鯛の焼身)や、甘辛く煮たかんぴょうと椎茸を混ぜたもの。ふっくらした穴子は煮たのちに炙っているのだろうか、なんとも香ばしい。甘さは控えめで、味の付いた錦糸卵と食すことで丁度良い甘さとなる。見事なものだ。 |
 | | むし寿司、アツアツをいただこう。 | |
 | 目にもおいしい、にしき寿司。 器と寿司の相性も楽しみたい。 | ケ ーキのようなデザインの「にしき寿司」(単品1250円)と、「大阪寿司」(単品2500円)の小盛りのセット、「にしき大阪」(2500円)で欲張りに楽しむのもいい。江戸前の握りはネタとシャリがすっとほどけていくのが旨さの特徴だが、こちらはやや硬めの米粒同士がぎゅっと結びついていて、みっちりした食感で舌を喜ばせる。ネタは昆布締めするなど、ひと手間加えられている。シャリの間にサンドされた椎茸とかんぴょうは地味ながら、縁の下の力持ちとなり、華やかさの中に印象的な深みを与えている。ほんのりした甘さの最後は、山椒が爽やかに締めていく。ドラマチックかつ絶妙の味の構成だ。 |
 | | Soave Classico | と ころで、大〆の寿司にはワインである。置かれているお酒はワインのみで、イタリアやドイツの赤と白が数種取り揃えられている。イタリアの辛口の白「Soave Classico」(ボトル3000円、グラス500円)は、ピュアな果実味と酸味、そしてほのかなスパイシーさがあり、甘めの寿司に寄り添うような印象だ。洋館で寿司とワインという洒落た寿司屋を経営するのは、3代目のご主人である。店内を彩るイタリアの風景画は、彼が描かれたとのこと。研ぎ澄まされたセンスと多才さを持つご主人によって、大阪寿司は味も美しさも芸術の粋まで達しているようだ。 |
 | | | | TEL. 03-3260-2568 | | 東京都新宿区神楽坂6-8 | | | 定休日:月・日(日曜は月に1度不定期で) ※なるべく予約してください | | | |
 |
| |